迷医 1■第2回■
我が家のかかりつけの獣医は、「迷医」です。
何故、「迷医」かと言うと

「先生、家の犬の熱の原因は何ですか?」
「なんだかなぁ・・・・・。」
「なんだかなぁ・・・って、先生・・・。」

と、こんな具合です。
犬がどんな病気で体調を崩したのか、病名は何なのか、
飼い主ならば明確な答えを求めます。
でも、ほとんど「なんだかなぁ・・・」なんです(笑)
それでも、きちんとそれなりの治療をして下さる、我が家の「迷医」ならば、
その治療で完治してしまう、我が家の犬は「迷犬」なんです。

こんな獣医さんですから、時には「この先生大丈夫?」と不安になります。
ワクチンとか、フィラリアのお薬を貰いに行く程度なら問題ありませんが、
万が一、重大な病気になった時信頼しても良いものだろうかと不安に思うのです。
 それで、犬友達にそれぞれの掛かりつけの獣医の評判を聞いたりします。
<ミッキー>
 我が家が初めて飼った犬はハスキーです。
15年ほど前に、いわゆる憧れの庭付き一戸建ての家に引っ越した時に飼いました。
庭付き一戸建てに住むと、今まで飼えなかった犬を飼うのはお決まりのコース。
我が家も例外ではなく、ペットショップに足を運びました。
そこには、可愛らしい仔犬が愛想を振りまき「私を飼って!私を抱っこして!」と
客の目を釘付けにするのです。
犬の種類などろくに知らない私達は、どの仔犬も可愛く映るのです。
目に留まったのは、シーズーの仔犬。
一番近くにいたからです。
お値段158,000円也。その値段を見た主人は

「何だ!犬ってこんなに高いのか!」
「犬なんて、貰ってくるもんだ」

と、ペットショップを出たのです。
しかし、その少し後に当時最低価格300,000円と言われた
バブル景気の象徴たるバブル犬のハスキーを飼う事になるのです。
現在の住まいであるこの家を建てている約半年間、一時的に借家住まいをしました。
その借家の斜めお向かいに、とても器量良しのハスキーの仔犬がいました。
白黒の毛並みに、あの独特なマーキングフェイス。
ちびっこギャングのような、愛嬌もある可愛い顔に主人は惚れたのです。
そして、「ハスキー飼うぞ!」となったのです。
絶対にこの犬種が欲しいと価値を認めれば、300,000円という高額でさえ出すのです。 
憧れたのは、白黒の毛並みにブルーアイ。
木更津で産まれたと情報が入り、仲介の犬屋さんと受け取りに行きました。
主人がミッキーを車で連れて帰って来ました。

私の第一声は
「随分と人相の悪い犬ね。」(笑)

歌舞伎役者のような顔立ちは、けして可愛らしいとは言えませんでした。
でも、その蒼い美しい瞳は心をときめかせてくれました。

「いやぁ、久しぶりに犬臭い臭いを嗅いだね。」と主人は得意げに笑い、
「そう?ただ、オシッコ臭いだけじゃない?」と答えました。

事実この悪臭はオシッコ臭であり、あまり綺麗とは言えない犬舎育ちでした。
ミッキーは、大変大人しくキャンともワンとも言わない仔犬でした。
後々考えれば、
それはボス犬としての運命を背負う犬として、充分な素質を持っていたのです。

 海が好きでした。
車で30分程走ると九十九里海岸があり、主人はミッキーを助手席に乗せ
よく海に連れて行きました。
まだ3ヶ月そこそこの可愛い仔犬のミッキーは、当時爆発的人気でしたから、
海に遊びに来ていた若い娘さん達の注目の的でした。
それが目当てかどうか定かではありませんが、
嬉しそうに1人と1匹で出かけて行きました。
散歩を兼ねたドライブは、主人とミッキーの絆を深くしました。
 しかし、やはり未だ仔犬。
北国の犬とはいえ、とうとう風邪を引かせてしまいました。
食事を受け付けず、吐き気と下痢が続いたのです。
夜中に玄関からミッキーの嘔吐や下痢の音が聞こえ、私は飛び起きて世話をしました。
下に敷いた新聞紙は、触るのも躊躇する位に排泄物で汚れ、
苦しそうに震えるミッキーがいました。

「大丈夫だからね。すぐ片付けるから・・・。」

犬に話して理解できるかどうか分かりませんが、
人間の言葉でいたわり、頭から背中を撫ぜてあげました。
不思議なもので、寝室から少し離れた玄関のわずかな変化を聞く事ができました。
それはまるで、具合の悪い我が子が隣で寝ているかのようです。
少しの変化で、パッと目が覚めるのです。
食事を受け付けないミッキーでしたが、パンだけは食べてくれました。
それで、パンに薬水を含ませ少しづつ少しづつ与えたのです。
一時は死んでしまうかもと心配したミッキーでしたが、
大好物のパンのお陰で、風邪を克服できました。
 でも、小さなミッキーの小さな首輪は指が2〜3本入る程グルグルに回ってしまいました。

「よく頑張ったねミッキー!」
痩せっぽちのミッキーは、一生懸命尻尾を振ってこたえました。

 主人のことが大好きでした。
普段、食事も散歩も躾も全て私がしているのに、悔しいけれど主人の事が大好きでした。
土日の休みは主人が散歩するので、時間になると嬉しそうに主人が来るのを待ちました。
けれど時には主人が自宅にいても仕事が忙しいと散歩に行けません。
それでいつものように私がリードを持ち、

「ミッキー、散歩に行くよ!」

しかし、ミッキーは玄関のドアに向かいお座りして主人を待ちます。

「ミッキー!ミッキー!行っちゃうよー!」

けれど、ミッキーは主人が扉を開け出て来るのを待っています。

主人は申し訳なさそうに、

「ごめんねミッキー、今日はお母さんと行ってね。」

優しい口調でミッキーに謝るのです。
私にはあんなに優しい話し方しないのになぁ・・・。
ミッキーはしぶしぶ私が持つリードに繋がれました。

『ちょっとー!ミッキーの為に散歩してあげてるんでしょうがー!!!』

2006年7月8日記