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今日が別れの日だと、自分で決めていたのです。 だから仔犬だった頃のように、大好きな主人の隣に座りたかったのです。 助手席から動かなかったのには理由があったのです。 もうとっくに体は疲れきっていたのに、アリスや家族の事が気がかりで逝けなかったのです。 娘2人の受験や私の入院・手術・退院、全て見届けて逝ってしまいました。 座席で異様なほど私を見つめていたのは、別れを告げていたのです。 ボス犬であるが故、他の犬達に弱くなった自分を悟られないよう逝ってしまいました。 こんなに近くにいた私にさえ気付かれないまま、静かな、そして見事なボス犬の「死」でした。 自宅に戻ると、とうぜん車から降りてくるはずのミッキーがいない事に心配した娘が、 「ミッキーは・・・？」 「・・・・・・・・・・・・死んじゃった・・・・・・・・・。」 私は震える声で涙を浮かべながら言いました。 そして他の犬を家に残し、ミッキーを獣医の元からお寺に連れて行きました。 だから、他の犬にはミッキーがこの世を去った事など知るよしも無いのです。 可愛い娘アリスでさえ、全く気付かなったのです。 何時までたっても母犬ミッキーが帰って来ないので、アリスは元気がなくなりました。 お散歩して自宅近くになると、 思いっきりリードを引っ張ったので私はアリスの力で引かれるまま、 小走りで家に帰ってきました。 そしてアリスは犬舎周りをウロウロ回り、確認していました。 散歩から帰ると、きっとミッキーが帰ってきていると信じていたようです。 その姿がいじらしくて、私も悲しくなりました。 それに、夜になるとミッキーを呼んでいるのか、毎晩遠吠えをするようになりました。 淋しそうに、低く小さな悲しそうな声で、長い長い遠吠えをしたのです。 他の犬も、流石に長い事ミッキーの姿を見ていないので不思議に感じているようでした。 ハスキーの犬舎には近づかないはなちゃんでさえ、そーとそーと犬舎を覗くのです。 何日経ってもミッキーが帰って来ないので、 はなちゃんはハスキーの犬舎周りを、点検してから散歩に行くようになりました。
主人と私はミッキーの眠るお寺に迎えに行きました。 お寺に着くと、ミッキーが迎えに走って来る気がしたのです。 だから「ハウス！」と言って車のドアを開けたので、 まるでミッキーが飛び乗るのを見たような気がしました。 当然、自宅に着いた時は「はい、お帰りなさい。降りて。」と言いました。 自宅に着いて、まず笑ったのは、 散歩前にハスキーの犬舎周りを点検に行ったはなちゃんが、血相を変えて戻ってきた事。 本当におびえた目で、視線を空中に向けあっちこっち目で追っていた事。 「ぷっ！（笑）ミッキーが帰って来たんだよ。」 私達家族は、その様子に大笑いしました。 でも、やっぱりミッキーは帰ってきていたんだと思います。 不思議な事に、その晩からアリスの悲しい遠吠えはピタリと止ったのです。 その晩は、きっとアリスはとても幸せだったのだと思います。
  それから1年経ち、里子に出したミッキーの娘ありすが里帰りする事になりました。 ミッキーが亡くなり、ようやくアリスが立ち直ろうとしたその時です。 ありすの飼い主宅が、新居を建てる為アパートに引っ越したのです。 ありすとシェットランドのガジャ丸の為に、庭付きのアパートに引っ越しました。 環境が変わった上に、敷地に制限のあるアパートでは繋いだ鎖も短くせざるを得ませんでした。 鎖を付けていても、自由に歩き回れた今までの生活ができなくなり、 不満がつのった、ガジャ丸とありすは1日中吠えるようになり、 引っ越したばかりのご近所から苦情を言われ、 飼い主はほとほと困り果てたのです。 事情が事情ですから、２頭は無理でもありすだけはお預かりする事になりました。 ２頭は姉妹でも、突然やって来た犬ありすは我が家のアリスにとっては、やはり余所者です。 ありすも、飼い主に置いて行かれた事が不安だったのでしょう。 飼い主が去った後、またしても２頭は威嚇し合い牙を剥きました。 ありすが家のアリスにマウンティングしたので、いきなり喧嘩が始まりました。 体の大きな２頭の喧嘩です。放っておいたら、どちらかが、いえ、両方が怪我をします。 私は夢中で外に飛び出し、傍にあった長い棒を振り降ろし、 ありすの背中をガンガンと叩きつけました。 「止めなさい！！！」 幸い２頭は怪我も無く、ありすとアリスも私の迫力に恐れをなしたのか喧嘩を止めてくれました。 ありすは、この家族はアリスの味方なのだと思い知らされたようです。 それからというもの、私は少しハンデをつけました。 アリスは自由に犬舎周りや駐車場を歩き回れるけれど、 余所者ありすには玄関先に長い鎖で繋いだのです。 ありすは元々長い鎖で繋がれた生活をしていたので、動き回れる事で満足でした。 でもアリスには喧嘩はしなくなったけれど、不満でした。 それは、今まで玄関の扉が開けばまず頭を撫ぜてもらい、自分が1番だったのに、 ありすも頭を撫ぜられるからです。 するとアリスは玄関から離れなくなりました。 私達をありすに取られまいと考えたのではないでしょうか。 夏の暑い盛りミッキーとアリスは、いつも家の北側にある犬舎で涼んでいました。 そこは本当に涼しくて風が良く通り抜ける絶好の場所で、 汗が止らないほど暑い日も、そこに行けばスーっと汗がひきました。 でも、アリスは自由に動けるのにありすと一緒に玄関先を陣取って動きません。 「アリスが一番なのにね。」 私達は誰もがアリスを1番に考えていても、アリスは不安だったのです。 それで玄関先に大きなすだれを横に張り、日陰を作ってあげました。 でも、やっぱり北側犬舎の方が絶対に涼しかったはずです。 けれど、常に２頭で玄関先にいましたから、２頭はとても仲良くなれました。 だから暫くしてありすの鎖も放して上げました。 ２頭で仲良くじゃれ合い、まるでアリスとミッキーに見え微笑ましかったです。 ご近所だって、散歩で逢う人でさえ、ありすはミッキーに見えました。 実はミッキーの死は悲しくて、1年経っても近所の方には知らせていませんでした。 そんな事を口にしたら、私は泣いてしまうから。 それでも２頭の玄関陣取り合戦は終わりませんでした。 ライバルで、遊び相手で、良い仲間になったある日、 ありすの飼い主宅が完成し、ありすをお迎えに来たのです。 ３ヶ月近く飼い主と離れていたありすは、とても嬉しそうに帰って行きました。 残ったアリスには、また淋しい日が続いたのです。 ありすが帰ってしまっても、ありすを待っているのか玄関先から離れません。 そして・・・・・・・・・・・
アリスの食欲が無くなりました。 ３日食べずにいるのです。 でも、好物を見せれば美味しそうに食べるので、いつもの我が侭病と思いました。 けれど、３日目の夕方、夏バテかもしれないので迷医に連れて行きました。 「なんだかなぁ・・・風邪でもひいたんだろ。」 注射と点滴をし、薬をもらって帰りました。 朝になり、主人が出張に出掛けるまぎわ、尻尾を振りながら水を飲んでいました。 「おっ！少し良くなったみたいだな。」 安心して出張に出掛けました。一通りの片付けが済んだので、 アリスに朝の薬を飲ませに行きました。 ところがアリスは、ガンとして口を開けずに食いしばっています。 「アリス、口を開けなさい。アリス！！！」 アリスの口元は異様に冷たく、これはただ事でないと気付きました。 しかし、ペーパードライバーの私がアリスを獣医に連れて行く事もできず、 また、タクシーを呼んでも、この具合の悪い大型犬は乗せてもらえません。 困り果て友人宅に電話したところ、偶然、そこのご主人が在宅していたのです。 そして事情を話すと快く、アリスを獣医に連れて行ってくれました。 ただ、前日我が家の迷医の診療を受けているし、 いつも「なんだかなぁ・・・」と答える迷医に不安を覚え、評判の良い別の獣医に運びました。 アリスも、自力で車に乗って行きました。 F動物病院の設備は整えられていて、獣医２人と研修医が２人いました。 受付の女性に病状を話し、診察の順番を待ったのです。 血液検査の結果、異常なし。しかし、明らかな貧血状態。 そして更なる詳しい血液検査、レントゲン撮影をし告げられました。 「白血病です。」 「・・・・・・・・・・白血病？」 「はい、普通赤血球というのは核が無い状態なんです。 でも、この子は核がある有核赤血球です。」 「だから、核があっては赤血球は数があっても酸素を体に運べないんですよ。」 「この子は産まれた時から、或いは産まれてすぐ白血病になったと思います。」 「それで太る事のできない体だったし、万年貧血状態でした。」 「万年貧血だから体が慣れていて、今まで苦しくなかったんです。」 「はぁ・・・・・・・。」 しかし、アリスは２〜３歳頃太り気味だったのでダイエットさせていたし、 ただの1度も病気で獣医にかかった事もなく８歳になっていたのです。 しかも自転車で、あんなに走っていたアリスを思うと、半信半疑でした。 それに８歳ですよ、８歳。産まれつきだなんて信じられない。 初めて診察したF動物病院は年齢を把握していないように思いました。 だって、アリスの毛並みはとても綺麗で若く見えたのです。 その時、突然アリスが苦しみ出したのです！！！ F獣医は、ＥＲさながらの機敏な動きで他の獣医や研修医に指示を出しました。 「ほらっ！そこ！グズグズするな！！！」 「○○出して！○○打って！！！」 「奥の診察台に運べ！！！ほら！早くするんだ！！！」 獣医達は指示通りバタバタ慌ただしく動き、 アリスは取りあえず1週間の入院をし、 様子を診ながらインターフェロンの治療をする事になりました。 アリスの容態が落ち着いたので、私は安心して帰路に着きました。 『入院したんだもの、もう安心。』夕方お見舞いに行く為に、 息子の帰りを待っていると・・・・・電話が鳴ったのです。 「たった今、心停止しましたので、すぐ来て下さい。」 絶句した後、息子に早く帰宅しろと電話しました。 外で待つと、息子が凄い勢いで帰ってきました。 私と娘は車に乗り込み、F動物病院へ急いだのです。 F動物病院に着き奥の診察室に通されると、 研修医らしき男性が心臓マッサージをしていました。 でも、その瞬間、それが私達が来てからのパフォーマンスであると直感しました。 心停止と連絡もらってから、少なくとも３０分は経過していたのに、 その間、新患の犬の為にずっと心臓マッサージしていたとは考えられません。 恐らく、入院したその日のうちに死んでしまった事への言い訳として、 飼い主を納得させる為のパフォーマンスです。 突然の事で涙も止らないまま、悲しみにくれアリスを自宅に連れ帰りました。 もう、11月でしたので居間は暖房がついていたので、 主人が出張から帰るまで亡骸の腐敗を避ける為、 火の気のない玄関の中に寝かせました。 毛布をかけ、頭を撫ぜながら、 「アリスは本当に馬鹿だね。」 「病気なんてした事が無くて元気でいたから、 １０歳過ぎても元気だと思っていたのに・・・。」 「それに、ミッキー母さんにはおよばないよ。」 「ミッキー母さんは、獣医に着く直前で亡くなったから医者代はタダだったのに、 アリスは馬鹿だから獣医に行ってから、1日で何万円も使って死じゃうんんだもの。」 「何万円も使ったんだから、死んじゃいけないんだよ。」 「計算できないんだね。本当に馬鹿だ。」 家族は、口々にアリスを叱りました。 叱ったけれど、もちろん、お金の事なんかじゃないんです。 アリスが生きていれば、それだけで良かったんです。 そして散々アリスの悪口を言った後、居間で最初にした事は、 出張先の主人にアリスの死を電話で伝え、 パソコンの壁紙になっているアリスの画像を息子に削除させました。 スイッチを入れると、笑って視線を合わせるアリスのアップの顔写真は辛過ぎます。 具合の悪くなる、たった１０日前に息子が撮った写真です。 「馬鹿だねぇ〜・・・また笑ってやがる。」 息子が撮ったその写真は、元々入っていたアイコンをずらす事もなく、 アリスの画像の形にピッタリはまっていたので、 壁紙になる為に撮った写真のようでした。 画像を削除し、代りにスピッツのベティーちゃんの写真に差し替えました。 そしてベティーちゃんの画像にアイコンが重ならないように並べ替えたのです。、 これで、アリスの笑顔を封じ込めました。 ところが翌朝、信じられない事が起きました！ 昨晩、削除したはずのアリスの壁紙がＰＣから飛び出しました！ 馬鹿です。また笑ってこっちを見ているんです。 息子に確認したけれど、 間違いなく削除したのは家族も確認しているのです。 手違いはなかったのです。 アイコンはベティーちゃんの画像に沿って並べ替えしたままなので、 アリスの画像と重なってしまっていたし、 何より昨晩、画像を入れ替えた後もＰＣのスイッチを入れ直したりしたからです。 その時だって、壁紙はベティーちゃんだったのは間違いありません。 でも、アリスがベティーちゃんを追い出してしまいました。 「お母さん、アリスはＰＣから出て行く気がないらしいよ。」 「そうだね。本当に、馬鹿だねぇ・・・・・。」 私達は「馬鹿だ」「馬鹿だ」とアリスの画像を見ながら泣き笑いしました。 そして、アリスを追い出すのは諦めました。 そんなに家族が心配だったら、逝かなけりゃいいのに・・・・・・。 冷たくなったアリスは、玄関で主人の帰宅を待ちました。 息子や娘達は出かける時、帰宅した時、 「アリス、行って来るよ。」 「アリス、ただいま。」 と声をかけ、生きていた時と同じように接していました。 そして家族の出払った玄関で、私もアリスとお話ししたのです。 息子は帰宅すると、着ていたジャンパーをアリスに掛けてあげました。 寒いのではないかという、息子のアリスへの愛情です。 男の子だから家族の前では泣かないけれど、アリスを失った悲しみを痛いほど感じました。 ２日後、主人が帰宅しました。 電話口では、 「しょうがないなぁ・・・・・あっさり死んじまうもんだなぁ・・・。」 と冷静に話していた主人ですが、目の前の冷たくなったアリスを見て、 「アリちゃん、べろがカピカピだ・・・。」 と言いながら、口からこぼれ乾燥した舌をしまってあげました。 そして、その目は真っ赤でした。 アリスもまた母犬ミッキーの眠るお墓に葬りました。 夏に姉妹犬ありすと一緒に暮らした事は楽しかったけれど、 仲良くなった頃、ありすがアリスの元を去り帰ってしまった事は、 アリスが母犬を失ったストレスに、更なるストレスを与えたのです。 アリスが死んだ本当の原因は分かりません。 パフォーマンスF獣医の診断を信じていないのです。 仔犬の頃から病気一つしないで育った丈夫なアリスが、 生まれつき重大な病気を抱えていたとは、とうてい考えられません。 恐らくアリスは、自ら母犬の元へいく事を選んだと思います。 母犬ミッキーの傍に行きたくて行きたくて、そしてミッキーもそれを許したのです。 だからアリスの死は、アリスにとっては幸せだったのかも知れません。 そうとしか、考えられないのです。 でも、家族があまり悲しむのを申し訳ないと思ってＰＣから笑いかけるのです。 ほんまもんの馬鹿犬です。 アリスが亡くなって１月ほどした12月24日のクリスマスイヴに、 スピッツのベティーちゃんが、３回目の最後のお産をしました。 ３頭の可愛い女の子を産みました。 |
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| 2006年8月2日記 | |||||||||||
